ここちカフェむすびの
Cafe Musubino.

Interview by: Kenzo Fukagawa and Hans Kurihara.
Photo Credit: Hiroshi Okamoto
Date: DEC. 6, 2017

Mr.Kawano / Owner of Cafe Musubino

いい店を知るきっかけは、知人からの口コミが多い。 「食べ歩きが好きなんですよ。」と言っていると、「あそこ美味しかったですよ。」と自然と情報が入ってくる。 むすびのを知ったのは、大学の後輩から「とてもあたたかいお店です。」と言われたことがきっかけだった。
むすびのがある鉄輪は、別府八湯の中でも、最も温泉街らしい佇まいを遺した地域で、地獄蒸しや蒸湯で有名だが、大衆演劇が楽しめるヤングセンターもまた良し。 綺麗な石畳に寝転ぶネコの姿も、また別府らしさを感じさせる。
鉄輪むし湯の横の湯気と木漏れ日が差し込む細道を進むと、 綺麗な薄水色の木造建築が見えてくる。一見、民家にも見えなくはないその建物こそ、むすびのである。

特徴的なのは、壁一面の窓たち。 窓から店内に差し込む日の光は、心地よい明るさと温かさを演出してくれる。 雨の日は、雨音が寂しげな雰囲気を作り出し、晴れの日は、陽の光の温かさが優しい気持ちにしてくれる。 天気が、店の雰囲気を様々な色に変えていく。

明治41年から鉄輪を見守ってきたこの建物は、元々は病院だった。 月日が経ち、家主の引退と共に病院としての役目を全うしたこの建物は、 その後、誰の手もつかないままこの場所で鉄輪の町を見守り続けた。むすびのの店主の河野さんと、この建物が出会ったのは14年前の話。生まれ育った大阪を離れ、別府に降り立った河野さんは、元から飲食業に携わっていたわけではなく、全てはここから始まった。

むすびのをはじめるまで

謙蔵「別府にいらっしゃったのは、いつごろなんですか?」

河野さん「もう16年くらい前になるんかな。元々は大阪で、それまで大阪を出たこともなくてね。」

謙蔵「大阪でも飲食のお仕事をされていたんですか?」

河野さん「いやいや、全然。全然関係ない仕事。ここが初めて。」

謙蔵「えー!そうなんですね!」

河野さん「さっきもウチに野菜を収めてくれる人にその話してて、『本当ですか!』って言われてね。ぼくはほんまにええかげんな人間ですよ 笑」

謙蔵「いやいや、そんなことないですよ 笑 飲食経験無しで、どういった経緯でむすびのを始められたんですか?」

河野さん「えっとぉ、ちょっと遡らなあかんのやけどね、ぼくが別府に来た頃に、鉄輪の街歩きのボランティアガイドをしてて、この店の前がそのコースになってたんですよ。そんで、ガイドしてた時に色んな人から『なんかこの建物良いですね。雰囲気が良いですね。』ってよく言われてたんです。この店が今みたいに綺麗になる前にね。その時ぼくはいつも案内してる道やからなんとも思ってなかったんですけど、なんか目に見えない雰囲気というか、パワーがある建物なんやろうなくらいには思ってた。そんで、ちょうどその頃前職を辞めて、自分としてもこれからどうしていこうかってなってる時に、やっぱり鉄輪好きやし、鉄輪の人は温かいし、この街で何かしようと決めて、それでこの建物の持ち主のハルコさん(富士屋ギャラリーの方)に、あの建物を貸してくれへんかなって話に行ったんです。そしたら、ハルコさんも築100年以上あるこの建物を家族で守ってきて、いつかこの建物を使って何かしたいなと思ってて、そのタイミングがちょうど重なって、今ぼくらがお店をさせてもらってるって感じですね。」

謙蔵「なるほど。『この建物で何かしたい』というのが最初だったんですね。」

この場所で飲食店をする理由

謙蔵「街歩きのルートだったとはいえ、正直人通りが多いわけでもないので、この場所でお店を開くっていうのは、なかなか勇気がいるんじゃないかなと思うんですが、その心配は無かったんですか?」

河野さん「もちろんあった。特に新規のお店となると、なるべく人通りが多いところでオープンするのが良いですやんか。そもそも飲食店にしようとはその頃思ってなくてね。」

謙蔵「そこから飲食店をしようと決断する経緯ってどんなものだったんですか?」

河野さん「それもまたご縁でね。当時、地獄蒸しの研究会があって、そこの平山先生という方と知り合ったのがキッカケ。平山先生も別府出身でね、色々とお話しさせていただく中で、『別府で地獄蒸しとか、低温スチームのお店をやりたい』という話しをよくしていてね。せっかくそういうものがあるんだったら、やってみようと動き出したのが始まりですね。」

謙蔵「実際にやってみようとなって、難しかったこととかってありましたか?」

河野さん「それがね、地獄蒸しと低温スチームを利用したお店をやろうと思っていたんですけど、立地的に地獄蒸しが出来ないんですよ。地獄からずーっと湯気を引っ張ってくるとなると、夏場は良いんだけど、冬場は温度が下がってしまって使えない。だから、低温スチームのみを使ってお店をやろうということになった。飲食店をしたいからこの場所ってことではなく、この場所で何ができるかを考えたら飲食店だった。『この場所』って言うのが一番大事だったんです。」

むすびのの料理について

深川「飲食店を始めるとなると、重要になってくるのは料理だと思うんですが、どのようにして準備していったのでしょうか?」

店主「むすびのを開く前に、時々田中さんのご飯をご馳走になっていてね、『田中さんの料理美味しいな』と思っていたんですよ。そこで、協力していただけないかなってお声がけして、引き受けてくださってね。とはいえ、田中さんも飲食店の経験があったわけじゃないから、一緒にメニューを考えていて『難しいな。』って思うこともたくさんありました。最初の頃はわからへんことだらけで、自分らの限界を感じさせられました。」

深川「先ほど頂いたピザも、独特な形をされていて、面白いなと思いながら美味しくいただきました。」

店主「今でもたまに『どうやってメニュー考えているんですか?』と聞かれることがあるんですが、『いや、本とかを参考にさせてもらってますよ。』ってね。すごく驚かれるんですが、まだまだ引き出しの少なさを痛感してます。まぁ、そんな中6年間やってきたからこそ、『これは美味しい』『こんな感じが良い』『これはイマイチ』というのが少しずつ掴めてきてはいます。」

深川「日々試行錯誤の連続なんですね。そこから今の健康志向な料理を提供されるのは、何か関係があるんですか?」

店主「健康志向だというのは幻想ですね 笑 ぼくたちは一度も『有機野菜しか使いません』『健康志向です』とは言っていないんです。ウチは手作りをするというのが基本。それは、さっき言ったみたいに、僕たちには特別な技があるわけでは無いからね。『手作り』ってことだけは、自分たちでできるから。それだけは極力守ろうと、なるべく調味料も自分らで作ります。そういうところがお客さんの目には『健康志向』という風に写るんじゃないですかね。たまに『おたく、マクロビのお店ですよね?』とか言われるんですが、『いえいえ違いますよ』ってね 笑」

全ては、この場所をどうしたいのか。

深川「そこまでして『手作り』にこだわる理由ってなんなのでしょうか?」

店主「やっぱり、この場所ですね。築100年のこの建物の雰囲気に合っているのか、邪魔していないかということが全ての中心に来ます。だからこそ、器も派手派手しいものではなく、この場所に合っているのかっていうのを意識して選びました。オープンの直前に、奇跡的にウチの雰囲気に合う器のお店を見つけてね、ギリギリ間に合ったって感じです 笑」

深川「お皿もとても特徴的ですよね。むすびのを紹介してくれた後輩も、『お皿がとにかく可愛い!』って言っていました 笑」

店主「この建物で何かしたいっていうのが全てのベースなので、基準はこの建物。開店当時からそれだけは変わってないですね。」

「むすびの」という名前に込めた想い

深川「”むすびの”ってお店の名前の由来はなんですか?」

河野さん「あのー、「結ぶ」っていう言葉を入れたかったんです。「結ぶ」っていうのは、人と人とか、心と心とか、地域と地域とか、そういう場所になったらいいなっていう気持ちで付けたんですけどね。あのぉ、もうちょっと現実的なことを言うとね、街歩きをしてて、街歩きって言うとね、今でこそちょっとおもしろいって感じやねんけど、鉄輪ってね、裏に地獄めぐりがあるんで、そこにすごい人がね、来てるわけやねんけど。全然そのーこっち側の、その雰囲気の残ったとこにはなかなか集客できなかったんです。唯一蒸し湯があるんで、蒸し湯と富士屋さんくらいまでは、来るかなって思ってたんやけど、そっから奥に入ろうと思うと、何にもなかったから、人が回遊することがなかなか無かったんですよ。そんでまぁ、ここができたんで、ここまで入ってくると、ちょっと点の繋がりができて、お客さんが回れるかなって、そういうことは少し貢献出来てるかなとは思うんですけどね。普通は観光客の人はここまで来ないですから。話してても、こんなとこ初めて来ましたとか、別府の人でもそういう人いらっしゃるんでね。そういう意味では良かったかなと思ってます。」

むずびののこれからのこと

深川「インタビューも最後になったのですが、今後挑戦してみたいことなどはありますか?」

河野さん「あんまりねぇ、歳もいってきたし、パワーが無くなっていってるからな。中々こう、考えてても形にならへんというジレンマはあるんやけど、まぁ、とりあえず10年はしようって思ってたんで、まずそこまで行って考えてみようかなって思ってるんやけどね。ただ、自分らから何かこう立ち上げるというのは、難しい面はあるんやけど、人が何かするのにお手伝いするとか、この場所を提供するとか。そういうことはしていきたいなとは思ってますね。」

深川「たまにギャラリーとして2階のスペースを貸し出してらっしゃるとも伺いました。これからも鉄輪と観光客のみなさんを繋げる場所として頑張ってください!」

■住所

大分県別府市鉄輪上1組

■アクセス

亀の井バス 鉄輪駅から徒歩8分
別府駅からタクシーで15分

■電話番号

0977660156

■WEBサイト

http://www.musubino.net/

■営業時間

朝ごはん 09:00 〜 11:00 (LO)
ランチタイム 12:00 〜 15:00 (LO)
夜ごはん 18:00 〜

■定休日

木曜日 / 第2第4水曜日

■メンバー

文責:Fukagawa Kenzo
写真:Okamoto Hiroshi, Shimizu Takahiro
プランナー:Kurihara Hans
協力:Hikari Matsuo