Culture Magazine from Beppu, Japan
Interview : Shota Kato
Photo : Kento Hirasue / Hans Kurihara
橋本栄子さんが現在大分別府の鉄輪で女将として運営している宿、「サリーガーデンの宿 湯治 柳屋」。この宿は元々、大分市でカフェ兼ケーキ屋として2008年から始まったサリーガーデン(https://www.sallygarden.jp/)が母体としてあり、橋本さんが女将となり宿として本格始動させたのは2014年のこと。建物自体は明治38年からあるものだが、本家がお客様がきた際に部屋がたりなく、いつでも貸せるようにと民泊のような形で始まったという。明治時代から続く建物とお宿のコンセプトを、現代まで続くよう日々変化させながらも、今もなお鉄輪の地元民だけでなく県外のお客様からも愛されている柳屋のストーリーと、その女将である橋本さんの思想に迫る。
いえ、全くなくって。サリーガーデンはカフェとケーキ屋なんですよね。で、ここは以前サカエ家さんとお宿で。その後継者がいらっしゃらなくて、探している中でご紹介いただいて女将をやることになりました。
お宿に関しては、ここの前の女将さんが後継を探してらしたんです。その方が好きだった旅館が由布院にあって、「無量塔(むらた)」っていう素晴らしいお宿なんですけど、月に1回いくほどのファンだったそうなんですよね。で、そこのオーナーが、女将さんに後継がいないので誰か紹介してくださいと相談された時に私を紹介してくださったんです。
その時ははっきり「とてもじゃないけどそんなに沢山働くのは嫌だし、カフェしかやったことない私にお宿は無理です」ってお断りしたんですよね。
けど、一度でいいからご挨拶にいきなさいって言ってくださったんですよ。宿の仕事って本当にいい仕事だからやってごらんって。で挨拶にいったんですが、その時女将さんも全く頑なな感じでこれは譲らないなと思ったんです。オーナーにはその後「ご挨拶したけどご縁はないとおもいます」ってお返事したら「今じゃないけど、また時がくるから」って。
その後、そのオーナーはご病気だったので亡くなってしまったんです。ただその方が色んな宿題を私にくださって、ケーキ屋を始めたのもその方がきっかけだったんですけど、色んなきっかけをくださった中の最後に残った一番大きな宿題が「お宿をやってみなさい」で。
そうしたら「もう一度ここをやりませんか」って、そこから3、4年たって全く別の方から女将さんが後継を探しているから会いませんかと言われて、「ああ、あそこ一回会ったけど縁がないと思います」といったんですが「一度でいいから会ってください」と言われて。
じゃあご挨拶だけ行きますと伺った時に、玄関に入ったら、まるで昔来た時の印象と違って、なんていうか、開けたら建物が迎えてくれた感じがしたんです。わー、待たれていた私!と思ったんですよね。そして玄関をあけて女将さんに会った瞬間に、ああ、これは私のする仕事だなってその時はもう決心ができた気がしました。
最初は、サリーガーデンはケーキ屋で洋の空間ですし真っ白い感じのイメージがあったので、この重たい感じとか和の世界は縁がないと思っていたんです。でも、4年後に再びやってきたとき、なんだかその時自分も4年分年をとっていたので、この良さがいつのまにか分かるようになってたんですよね。
あまりにも素人だったので、半年間とにかく宿の仕事を一回自分たちなりに経験してみようということで、カフェのスタッフ三人で始めてみたんです。そこから半年間やってみて、自分たちとしてオペレーションしづらいと思ったことを、そこから4ヶ月かかって工事をしたんです。
工事をする際に建物の床の下を見ると、表面には気づかない工夫が沢山あったんです。例えばこのテーブルとかも作り直してしまったんですけど、これをキュって何度か回すとこのまま床にすぽんと収まって、広間になるようになっていたんです。今まで気づかなかったものが一回掘り返してみたことで見えてきたことが沢山あって。もともと誰かのものを引き継ぐという上で、前任者の思いを大事にしないといけないなっていうのは自分のミッションとしてあったんですけど、一層尊敬の気持ちが強まりましたね。
前の女将さんは食器も趣味の良い方で様々なものを残してくださっていたんですけども、選別したものだけを残して、一旦残りは閉まいました。風通しをよくして、清潔にして。和室だけど現代風にベッド置いたりとか、帰った時に自分の日常がより上質なものになってくれているといいなと思いながら新しい風を取り入れて行きました。
一応宿泊のことは考えていますが、私にとって居心地がいいかとか私だったらどう過ごしたいか、というターゲットはまず自分自身なんですよね、私の場合。なので、自分にとって気持ちの良いものしか置かないし、それを理解くださる方が集まってくださるんですよね。それが一個の切り口かな、と。あともう一つは、湯治ですね。私たちは皆さんの生活の中に、「もっと湯治のあるライフスタイルを取り戻してみませんか」という提案をここを通してしようと思うんです。
単にきて1泊されるのではなくて、3泊4泊、せめて心のためには3泊必要だと思うんです。体のためには3週間と言われているんですけども、昔の湯治は杖をつかないととてもじゃないと来れなかったお客様が、杖がなくて歩いて帰れるようになっていたそうです。なのでその辺の筋湯とか蒸し湯はみんな要らなくなった杖が、天井まで積まれてたっていうんですよね。
この辺に住んでいる80代の女将さんがそういう風景を一杯みていて、大体2週間とか3週間で体が入れ替わるってよく聞いてたんです。当たり前のようにそれくらいお湯がきくっていうのは知れ渡っていたんですよね。
その提案をメッセージとして伝えるためにも、現在「3泊すると3泊目は半額」、「4泊すると4泊目は無料」、というのをこの1年くらいやっているんですけど、最初はやはり皆さん一泊からスタートすることが全体的に多いのですが、「ああよかったな」と確信したら次は3泊4泊できて、こういう暮らし方があるっていうのを感じてくださる気がしています。
そうですね、サカエ家さんの時に、私は地獄蒸しっていうのは単なる調理方法だって思ってたんですよね。私も引き継ぐ前に一度泊めていただいたんですけども、その時に本当に見事な懐石料理に仕立て上げていたんですよね。ただ食べ始めはワクワクするけど冷えていくとテンションもさがって会話もなくなって黙々食べるって感じで。ああ、蒸し料理ってもうちょっと工夫しないと、わってでてきて豪華だって一瞬テンションが上がるけど持たないなって自分自身が感じたんですよね。
柳屋にあるイタリアンレストランは、「山荘 無量塔(むらた)」の料理長だった梯さんにはいっていただいているんですけど、私もともと大分でバールポンテっていう立ち飲みのお店を彼とはじめたんですよね。その際に本当に信頼できる方だなあと思って。
大広間で地獄蒸しの料理を食べていた時、ともかく自分が心から食べたい、と思うものがなければ柳屋レストランをする意味がないとまで思ってんですよね。皆さんが地獄蒸しの自炊だけでも十分楽しいとは思いますので。そこで梯さんにも「梯さんが来てくれたらするし、来てくれなかったら私別にレストランしなくてもいい」って言いました。笑
その頃梯さんは自分のお店をやってらしたんですけど、一回閉じていただいて、ここの立ち上げをしていただいたんです。もうそこから5年間なのかな、ここ「Otto e Sette Oita」でレストランの仕事をしてくださっているんですけど。
いつも自炊もつかれるし、いつもレストランばっかりでも違うし。1回の3−4日の滞在だったら、1泊はレストランにいきたいけどあとは軽い食事があったらいいなと思い、宿の前に蕎麦屋さんを作ってもらったんです。私は大家さんで、蕎麦屋さんにきてもらったんですけど、お泊まりの方で福岡で蕎麦屋をするからいろんな家具に興味があるんですという方がいたんです。鉄輪の街並みに古本屋と蕎麦屋は欲しかったので、絶対鉄輪でやってくださいっていって結局きてくださって。そこに蕎麦屋ができました。
そんなふうに自炊とレストランの間を埋めることができているわけですが、もっと必要ですね、滞在を楽しむためには。
興味はちょっと前まで働きかた改革とか生産性向上だったんです。それが自分なりに勉強していってある程度方向性がみえてきたんですよね。働きかた改革のなかで評価の問題があって、評価っていうのは人を裁くのではなくて、その人のモチベーションを上げてここで通用したことがよそでも通用するような普遍的な力をつけていって欲しいんです。
そういうモチベーションを上げるチームの作り方とか個人の育てかたっていうのに興味があって、今できるのであれば留学とかして勉強したいなって思っているのがわたしの中のブームです。
あとは、学校があったらいいなっておもってます。働いている人も気持ちが疲れているけどそこにくることによって、自分を取り戻したりとか仕事のブラッシュアップができるような場所があったらいいなって思うんですよね。
もう一つは自分のためですけど、女性が1人でも安心して泊まれる宿がほしい。これの進化系として、シニアが安心してすごせて、自分の尊厳を保てる共同住宅を作りたいなって。
将来的には柳屋のお客様でこの価値観に共感してくださっている方が、気がついたら一緒に集まって住んでいて、柳屋のスタッフが気がついたらフロントやってくれてるみたいな、感じでいくことになれば、とおもってます。笑
別府市鉄輪井田2組
IN14:00 OUT10:00 ※チェックインは18:00まで
なし
0977664414
10台
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