Culture Magazine from Beppu, Japan
Interview by: Kenzo Fukagawa and Hans Kurihara.
Photo Credit: Hiroshi Okamoto
Date: DEC. 6, 2017
「ただ、外国に行ってみたい。」そんな純粋な気持ちで船に乗り込んだのは16歳の時。学校を卒業し、若くして社会に飛び出した青年は、自分の気持ちの赴くままに船に乗った。そして、気がつけば世界中を旅する料理人になっていた。この映画のような話の主人公こそが、今回ご紹介する「お食事処 きむら」の店主の木村さんだ。取材当時、就職前だった私たちに対して「人生とは」「仕事とは」を熱く語ってくださったのがとても印象的だった。
きむらといえば、幅広い年齢層の方々に愛される別府の名店である。店内の灯りはとても温かく、家族の一員にでもなったかのような歓迎っぷりは、きむらを訪れる楽しみの1つだ。鍋の支度をしてくださるのは、木村さんのご家族の方々。鍋の具材についての説明はもちろんのこと、お客さんに合わせた話題で会話を弾ませるのは、きむらならではの接客。お客さんとのコミュニケーションを大切にするのは、きむらの成り立ちにある。今回は、そんな話にも触れてみた。
ぼくが中学校卒業してからやから、16歳の時。最初に足を踏み入れたのは、昔はセイロンって言ったんやけど、今で言うスリランカやね。ほら、当時は何もわかんない状態だったから、ただ外国に行きたいって言って船に乗せてもらった。その頃はね、ボーイをやってた。船の中って言っても、色んな仕事があるからね。航海士、機関士、通信士、それから司厨士。この司厨士ってのが、調理場担当でね。キャプテンから、せっかくなら何か身になるものを仕事にしなさいと言われて、希望したのが司厨士だった。そっから8年間司厨士として船に乗って世界中旅してたんだけど、やっぱり長くやってると、いつか自分のお店を持ちたいなぁって思い始める。ちゃんと専門的な料理の勉強もせないかんなぁと思ったんやけど、何を持って専門的というのかがぼくはよくわからなくてね。料理の専門家とかって聞くと、みんな究めてる人ばっかりじゃない?でも、正直これって能力を伴うものじゃない?だから、自分のスタイルでお客さんを喜ばせれば良いんやってね、そう思ってお店を始めたのよ。
最初は大阪でね、母ちゃん(奥さん)と2人で出前もやるような定食屋をやってたよ。ここのメニューにもたくさん書いてるやろ。今は鴨鍋のお店ってみんな思ってるけど、元々は定食屋。忙しかったね、あっという間やった。なんていうんかな、仕事に追い回されるっていうんかな、とにかくゆとりが無かった。でも、今考えるとゆとりがないってのは、とてもプラスになったね。ずーっと何かに追い詰められてると、何とかしてそれに応えようと、常に自分で頭使うやろ?自分の頭の中で色々と計算したりね、それの積み重ねのような、そういう経験が若いうちは必要なんじゃないかなと思う。若い内にサラリーマンで、ゆとりがあって、たくさんお金をもらうってのも、1つの喜びかもしらん。
でも、人間は贅沢な生き物やから、どんどん良い物が欲しくなる。今20万円の生活をしてても、30万、40万の生活ってなる。いきなり10万円の生活しろって言われてもできんでしょ。でも、そういう我慢する体験ってのは、若いうちしかできんと思う。だからね、その時々に満足したらダメなんですよ。ずっと『憧れ』は持っておかなきゃダメ。『憧れ』はね、モチベーションを上げてくれる。うちのお客さんにパイロットの人たちがいるんやけど、みんな本当にキラキラしてるんですよ。なんでかって言うとね、みんな憧れてなった職業なんですよ。
だからね、ぼくは若い子たちにはああいう憧れの大人ってのを持って欲しいなと思ってる。大事なことはね、『憧れ』と『羨ましい』っていうのは違うってこと。『羨ましい』ってのはダメ。何でも一度自分でやってみれば良い。出来ないことなんて無いんですよ。ぼくなんか、みんなみたいに学校出て無いんだから。母ちゃんにはたくさん迷惑をかけたと思う。
ぼくの『こんな店が作りたいんだ。』っていう思いにね、協力してくれてね、今こうやって家族みんなで店が出来てね。ぼくは、本当に幸せだよ。」
Inside look at the restaurant.
At Kimura, every one of the family is helping out.
Even the youngest generation.
大阪から別府に移ってきてからなんだけど、その頃ちょうどパイロットの訓練所に通ってる人たちがよく店に来てくれててね。ある日、『今日は寒いから鍋が食べたい!』って言われてね。ちょうどその時に鴨肉を持ってて、『じゃぁ鴨鍋なんてどうでしょう?』ってなって作ったのが鴨鍋の始まり。レシピも無いから自分で考えて、自分で出汁とって、具材を切ってね。そうやって作って出してみたら、えらいみなさん喜んでくれた。その中の1人の方が『こんなに美味しいのなら東京の家族にも食べさせてあげたい!』と言われてね、『じゃぁ奥さんが何も買って来なくてもすぐに自宅で食べられる準備をして郵送しよう。』と思って始まったのが、鴨鍋セットの郵送。今となっては北海道から沖縄まで、色んな所から注文があって大忙しだよ。店も忙しいし郵送の準備でゴボウを削いだり、こんにゃくも手でちぎったりしてね。何度辞めようと思ったか。でもね、喜んでくれるお客さんがいる限り、その期待に応えなきゃいかんのですよ。どんな仕事も一緒だけど、きついもんはきついし、忙しいもんは忙しい。でもね、そういう立場に立てるってことが最大の幸せなんですよ。
そうやね。マニュアル通りのコミュニケーションじゃ、本当に心から繋がることはできないんですよ。今は、マニュアルで接客するお店が多いじゃない。それはそれで良さがあるんだろうけどね。せっかく縁あってうちのお店に来てくれたんだから、気持ちよく帰って欲しいなってぼくは思うし、そういう気持ちで店をやらないといかんとも思ってる。天気とか、最近何があったみたいな、世間話でも全然良いんですよ。
『今日は雪が降ってますね。』とかね。知らないお客さん同士が隣り合わせで座ってても、『お客さんはどう思いますか?』みたいな感じでポッと話しかけたりね。そういうお客さん同士が繋がるキッカケをぼくが作ってあげる。そしたらお客さん同士で話し始めるでしょ。なんか、ご飯を提供するだけのお店じゃなくてね、楽しく帰ってもらいたいなってね。
それがぼくの変わってるところなんだけど、『これが美味しいから来てください!』みたいなこと言えないんですよ。だって美味しいか美味しくないかってお客さんが決めることなんで。だからうちの店の中に『おすすめ』とか書いてないし、『鴨鍋が美味しいから来てください!』みたいな宣伝はしてないんですよ。食べた人が『美味しかった』って言って帰ってくれるのがぼくたちの1番の喜びなんですよ。ここで出してるものってのは、基本的にぼくの味なんで、それに喜んでくれる人がまた来てくれるって感じ。だから、ぼくは自分を売り込むっていうのが苦手でね。ぼくはね、本当に良いお客さんに恵まれたなって思うんですよ。嫌なお客さんなんてほとんど来ないですよ。なんでかって言うと、きむらが好きで何度も足を運んでくれるお客さんたちが店を守ってくれてる。そういうリピーターのお客さんたちを大事にしたいから、ぼくは宣伝とかしないんですよ。APU(立命館アジア太平洋大学)のお客さんとかもそうでしょう。みんながどんどん宣伝してくれる。『あそこ美味しかったから今度行こうよ。』とかね。そうやって伝えていってくれる人たちを大事にせんで、誰を大事にするんやってね、そういう思いでお店をやってます。」
大分県別府市新港町2-14
別府駅から車で10分
別府観光港のバス停から徒歩10分
ランチ 11:30-14:00
ディナー 18:00-23:00
木曜日
文責:Fukagawa Kenzo
写真:Okamoto Hiroshi, Shimizu Takahiro
プランナー:Kurihara Hans
協力:Hikari Matsuo
Projects that we have worked over the years in Beppu.